メドゥサ、鏡をごらん(井上夢人)感想

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作品紹介

SF風味が強い著者だが、これは正しくホラー。作中の主人公の感じる違和感、不安が良く描かれており、精神的に疲弊し判断力が鈍ってゆく主人公同様に読者の混乱も誘う構成力は相変わらずだと感じた。

表題を見てみよう。メドゥサ、と言えばギリシア神話に登場する怪物であり、「見たものを石に変える」ことで有名だ。そして、鏡はメドゥサが絶命した原因となったもので、どちらもギリシア神話からとったパーツになる。

表題の意するところは、元々は美しい容姿でありながら、アテナの怒りを買い醜い姿へ変えられてしまったメドゥサに対し「自分の姿を見ろ」。酷な仕打ちである。そしてそのタイトル通り、作品の内容も暗く重くなっている。

感想(少しネタバレあり)

自身をコンクリート固め=石化して亡くなった男と残された「メドゥサを見た」という遺言。とんでもなくホラーで理解しがたいシチュエーションな作品である事がうかがえる。

現実としてメドゥサが実在するはずはないし、ましてやそれを見たからといって自ら石になるなんて、正常な精神状態では考えられない。とにかくやばそうである。


自分はこの『メドゥサ、鏡をごらん』に対し、雰囲気は良く展開も文句なしに楽しめたのだが、作品の締め方がやや物足りなかったと思っている部分もある。混乱のまま物語が終わってしまうという感じで、しっくりと来ないのだ。

別に作中の主人公がどう錯乱しても構わないのだが、読者に対してはなるべく解答を提示して欲しいところ。「そういうことだったのか!」と驚くところもあるのだが…… 


ただ、ホラーとしてみればこれほどいやーな感じで恐怖を煽る締め方はないのかも知れない。かなり衝撃的な事実さえ飲み込んでしまう、ねっとりとした気持ち悪さは、本作の事件が”メドゥサの呪い”「恐怖の連鎖」の一部でしかないとさえ思わせる。なんてこったい。
ホラー好きにはハマりそうな作品だ。

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